2011/07/20

置き手紙。

目が覚めた。
反射的に、と言ってもひどい二日酔いの割にはだけど、僕は時計をみた。

10時半。

何時に寝たかも思い出せない僕は、
セメントで作ったように頑丈なカーテン(これは彼女が選んだものだ)が見事に光を遮っていて、
10時半というのが、朝なのか夜なのか判断が付かなかった。


2日間ほぼ寝ないで割と大きな仕事を終わらせた僕は、疲れてはいたけれど気分良く、前々から約束していたディナーに向かった。

基本的に食べる場所などはどうでもいい僕に、彼女は予約なんかはわざわざしなくて良い所をいつも選んで連れて行ってくれていた。
注文なんかも殆どが彼女がしてくれたし、僕はそれを食べて飲んでいるだけでよかった。

『私わりかしこういうの得意なの。』

彼女はいつも食べる僕を見ながら嬉しそうに言っていた。

うん、
人に才能のグラフかなんかがあったとしたら、確かに君のそういう選ぶセンスみたいなものは飛び抜けているはずだと、僕は思うよ。

僕は黙々と出ているものをきれいに片付けながら、そういう事を考えていた。


だけどその日(きっと昨日だ、)は○月○日の20時から何か特別美味しいものを食べたいからあなたにどこか選んでほしいと言われ、
僕は、僕なりに色々と調べてあるお店を予約した。

綺麗にアイロンのかかった白いシャツを着たギャルソン風の格好をしたウエイターに席まで案内させられ、
その日は約束通り、僕が食事とワインを選んだ。

きりっと冷えた白ワインと、白アスパラガスを茹でてオリーブオイルをかけただけの料理と、
生ガキを僕ら二人は分け合って食べた。
それから舌平目のムニエルを彼女が、僕はイワシを焼いたものを食べた。
どれもきちんと調理されていて、自分で選んだわりには当たりと言えるレストランだった。

ただ彼女は一言も口を聞かず黙々と食べ続けていた。

『おいしいね。』

と僕は試しに聞いてみたけど、彼女は話すかわりにニコリとしただけだった。
仕方ないので僕は、食べる事と飲む事に集中することにした。
だからその日は話さない代わりにやたらと酒を飲んだ。
そのレストランにある白ワインが全部なくなってしまうんじゃないかというくらいに。
コーヒーを飲み終わると、僕らは適当にbarに入り、また酒を飲んだ。
僕らはボーリングが出来そうなくらい空のワインボトルを並べ、bob dylanのアルバムを聞き終わるより先にウイスキーのボトルを空にした。


というのが、ベットから立ち上がり、セメントのようなカーテンを開け、今が朝の10時半だと分かるまでに思い出せた事だ。
そして僕は、朝だと分かったとたんに急激な喉の乾きを感じ、その日が終わってしまうんじゃないかと思う程長いため息を付き、台所に向かった。
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し一気に飲んだあとに、テーブルに目をやった。

そこには一人分の見るからに冷めた朝食と、一枚の置き手紙が置いてあった。

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