2011/07/27

2011-12AW/ 第一弾取り扱い店舗。



男話しかける。『ねぇ、今日は何曜日、、いや、何月だっけ?』

女は答える。

『7月27日、ついでに言うと水曜日。』

男『そっか、やっぱり。もうそろそろかなと思ってた。』

女『何が?、、、ねぇ、それより朝ご飯が食べたい。』

男『あっ、ごめんね、ちょっと待ってて。』

男はパタパタとスリッパの音をたてながら小さいながらも愛着のある台所に向かう。
冷蔵庫を開けて中身を確認して、頭の中で献立をたてる。
その間にオレンジジュースを彼女の前に持っていく。

女『ありがと。』

台所に戻った男は、夜の間犬の様に眠っていた野菜たちを取り出し、レタス、アスパラガス、トマトの順に洗い、アスパラガスの為にだけ鍋にいれた水を沸かす。

女『おいしい、このオレンジジュース。』

『そう?よかった。』男はレタスを千切りながら答える。

『そういえば、さっき言っていた、そろそろ、って何?。』オレンジジュースを注ぎながら話しかける女。

『?』トマトを切り終えた男は、彼女の質問をもう一度頭の中で反復して、答えを探す。

『あぁ、さっきのね、そろそろJUN OKAMOTOの2011-12AWのデリバリー第一弾が行われるんだよ。プリント物を中心に!』

『へぇ、どこで?、、、ねぇ、コーヒーが飲みたい。』

男は既にガラスの容器の下に落ちてしまっている優しい黒い色をした液体を女の前に運び、真っ白なマグカップの中に出来立てのコーヒーを注ぐ。

『都内だと、BARNEYS, IENA, monster in my daydream, ISETAN 立川店 ,,,,,』

そう言って男は台所に戻り、朝食の準備を再開する。
茹で上がったアスパラガスは氷水を潜り、フレッシュな緑色を取り戻し、レタスとトマトの中に入れられ、次の出番を待つ。

『あっ、あと君の地元にも!宮崎のSabbath!それに大分のcontessa ricca, 熊本のlurachuna, 福岡のsign of the times ,,,』

『へぇ、宮崎にもあるのね。ママに伝えておくわ。』

『メルシィ、マドマァゼル!』そう言って、宮崎の小さなお店にフランス人の大女が入っていくところを想像して少し吹き出す男。

充分に熱されたフライパンにオリーブオイルを垂らし、卵を割り入れる。

『それから、大阪のThe Galaxy Harmony, 石川のiroha, 富山のSEA BERTH, あとはweb shopのCHARMWORLDnuan+。』

『取り扱い店舗はまだあるけど、残念ながら一回目の商品が入っていないんだ、、だから他のお店で商品が見れるのは8月後半かな。』

そこまで言い終わり、フライパンの蓋を取ると、だいぶ色白になった目玉焼きが二つ、出来上がっている。
岩塩と黒こしょうにオリーブオイル、バルサミコ酢に上品に和えられたサラダと、焼き上がったばかりのトーストを一緒に食卓に並べ、男はやっと女の前に座る。

『ボナペティ。』
男は彼女を見つめ、そうつぶやく。

『ありがとう。』
ニコリと微笑み、女は目玉焼きにナイフを入れた。










2011/07/20

置き手紙。

目が覚めた。
反射的に、と言ってもひどい二日酔いの割にはだけど、僕は時計をみた。

10時半。

何時に寝たかも思い出せない僕は、
セメントで作ったように頑丈なカーテン(これは彼女が選んだものだ)が見事に光を遮っていて、
10時半というのが、朝なのか夜なのか判断が付かなかった。


2日間ほぼ寝ないで割と大きな仕事を終わらせた僕は、疲れてはいたけれど気分良く、前々から約束していたディナーに向かった。

基本的に食べる場所などはどうでもいい僕に、彼女は予約なんかはわざわざしなくて良い所をいつも選んで連れて行ってくれていた。
注文なんかも殆どが彼女がしてくれたし、僕はそれを食べて飲んでいるだけでよかった。

『私わりかしこういうの得意なの。』

彼女はいつも食べる僕を見ながら嬉しそうに言っていた。

うん、
人に才能のグラフかなんかがあったとしたら、確かに君のそういう選ぶセンスみたいなものは飛び抜けているはずだと、僕は思うよ。

僕は黙々と出ているものをきれいに片付けながら、そういう事を考えていた。


だけどその日(きっと昨日だ、)は○月○日の20時から何か特別美味しいものを食べたいからあなたにどこか選んでほしいと言われ、
僕は、僕なりに色々と調べてあるお店を予約した。

綺麗にアイロンのかかった白いシャツを着たギャルソン風の格好をしたウエイターに席まで案内させられ、
その日は約束通り、僕が食事とワインを選んだ。

きりっと冷えた白ワインと、白アスパラガスを茹でてオリーブオイルをかけただけの料理と、
生ガキを僕ら二人は分け合って食べた。
それから舌平目のムニエルを彼女が、僕はイワシを焼いたものを食べた。
どれもきちんと調理されていて、自分で選んだわりには当たりと言えるレストランだった。

ただ彼女は一言も口を聞かず黙々と食べ続けていた。

『おいしいね。』

と僕は試しに聞いてみたけど、彼女は話すかわりにニコリとしただけだった。
仕方ないので僕は、食べる事と飲む事に集中することにした。
だからその日は話さない代わりにやたらと酒を飲んだ。
そのレストランにある白ワインが全部なくなってしまうんじゃないかというくらいに。
コーヒーを飲み終わると、僕らは適当にbarに入り、また酒を飲んだ。
僕らはボーリングが出来そうなくらい空のワインボトルを並べ、bob dylanのアルバムを聞き終わるより先にウイスキーのボトルを空にした。


というのが、ベットから立ち上がり、セメントのようなカーテンを開け、今が朝の10時半だと分かるまでに思い出せた事だ。
そして僕は、朝だと分かったとたんに急激な喉の乾きを感じ、その日が終わってしまうんじゃないかと思う程長いため息を付き、台所に向かった。
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し一気に飲んだあとに、テーブルに目をやった。

そこには一人分の見るからに冷めた朝食と、一枚の置き手紙が置いてあった。

2011/07/09

言い訳。

暇だ。

最初に出された水からは、僕の占拠しているテーブルの上を縦横無尽に水滴が攻めてきて、
僕の飲んでいたビールのグラスは片付けるのが追いつかない程、急ピッチで増えていった。

カオス、

を見事にテーブルの上で作り上げた時、携帯電話は既に僕に語りかけるのを諦め、
持って来ていた読みかけの本は行間まで読み終えた僕は、他にやる事も無く、
見える限りのそこにいる客とスタッフの動きを完全に把握してしまっていた。
小綺麗に髪をまとめた耳のかたちのいいウエイトレスは、遠慮がちに何度も僕に話しかけてくれたのだけれども、
何か欲しいものがあるときは自分から頼むから、と言って以来ぱたりと姿を消した。
僕は十分すぎる程苛ついていた。。
コップの周りから溢れ出す水滴も、空のコップも、空の灰皿も、会話が出来るんじゃないかと言うくらいまで眺めた。
もう僕にはこれ以上時間を潰す方法を思いつく事は出来なかった。
それを見つける事が出来たら、きっと僕はそれを本にでもして、、、そうか、小説の続きを書こう、と僕は思い、、
なんて、僕は小説家でもなければ、小説をまともに読んだこともないんだった。

これ以上つまらない事を考え出すと周りにも迷惑になると思った僕は、諦めて電話をかける事にした。

『やぁ。』

彼女はまるでさっきまで一緒に過ごしていた恋人みたいに親密な甘い声で、僕に200回目の言い訳をした。

日は沈み、他にする事も思いつかないので、僕は耳のかたちの綺麗なウエイトレスを呼び、さっきの自分の態度を謝罪し、
テーブルの上の邪魔なものを下げてもらい、新しくこの店で一番冷えたビールを頼んだ。

冷えた旨いビールを一息で飲んだ僕は、彼女を好きな自分に呆れて、小さなため息をついた。

2011/07/06

煙草。


雲を絞ったように降り続ける雨。
僕はぼんやりと、吸わない煙草を吸う振り
をしてみる。
隣に座っている犬は、遠くの何かを探しているといった風に僕の吐き出した風の意味を探る。
僕は彼女が唯一置いていった青空みたいに青いワンピースを眺める。


彼女はたしか

『このワンピース、雨みたいな色ね。』

と言った。

僕はたしか

『そうだね、青空みたいな色だね、』

と答えた。



その頃の彼女がみる青空には、いつも厚い雲が広がっていたのかもしれない。

今の僕のこころみたいに。



2011/07/04

目玉焼き。


いつ始まったのか思い出せないくらいの、長い長い二日酔いから醒める間もなく迎えた新しい朝、

僕はいつものように

『おはよう。』

を言い忘れ、

彼女が作ってくれた、きっとため息の分だけ固くなった目玉焼きを無感動に食べながら、少しだけ笑顔の練習をしてみる。

『美味しいね、』

なんて、信じてもらえないのを分かりつつ、僕は口に出してみる。

『ありがとう。』

と言いながら少しだけ笑った彼女に、僕は少しだけホッとして家を出た。


彼女の笑顔と苦いコーヒーのお陰で、少しだけまともに戻った頭で僕はここ数日間引っかかっている何かを思い出そうと試みてみる。

僕のこの数日間の深酒は、その何かを思い出さなくてはという脅迫観念から飲んでいたんだと思う。
酒を飲むことによって、その頭の奥のフックに手が届くんじゃないだろうか、、なんて。

けど、結局のところ、僕は酒を飲みたかったから飲んでいただけなんだ、
と開き直り、それ以上考えるのを諦め、酒を飲まずに家へと帰った。


家へ帰ると、

そう、

そこには何もなかった。

クローゼット、靴箱、洗面所、その他のあらゆる二人のスペースから、きれいさっぱり彼女の分だけ物が消えていた。

そう、

僕はひとりになった。


『かちり』


そして僕はようやく引っかかっていた何かを思い出す事が出来た。
今日は彼女と出会って一ヶ月目の記念日だったと言う事を。



という訳で、wallflowerが出来てひと月が経ちました。
wallflowerは居なくなるどころか一ヶ月分この土地に馴染んできました。
色々な方の足音を秒針代わりに、チクタクと時を刻んでいます。

12日まで僕もお店に居るので、もしお近くの方やちょっと無理すれば来れる方は是非足を運んでみて下さい。

それとwallflowerのブログが始まってます。
基本的には店長が(僕と違って)毎日書いてくれてます。
出来上がったばかりの一点物の洋服が見れます。