2012/07/10

雨男。


「また雨みたいね。」

昨日の夜に送られてきた彼女のメールを読み返し、彼女の予言通り(といっても、誰が予測しても今日の雨は確実だったんだけど)に降り出した雨と、僕の前を行き来する人たちをぼんやりと眺めていた。雨の日に歩いている人たちは工場のベルトコンベアの上を流れていく大量のクッキーのように、無感情に傘をさし、そして下を向いて黙々と歩いていた。僕はそんな事を思いながら眺めていたけれど、そのうち眺めるのにも飽き、目ついたカフェに入った。白が基調のこじんまりとした店内には、マッチ箱みたいなテーブルとマッチ棒みたいな足のついた椅子が不揃いに並んでいてた。
僕はそこでビールを頼み、the smithを聞きながら、また新しい気持ちでぼんやりと雨を眺め始めた。少し強かった雨も次第に弱くなり、2杯目のビールを頼もうとしているところで、待ち合わせの場所に彼女が歩いてくるのが見えたので、僕は勘定を済ませて駅前に戻った。

『ごめんなさい、また遅れちゃって。』傘を少し傾けて、彼女はいつも通りの挨拶をした。そして僕はいつも通り微笑んだ。
『君の勝ちだね。』そう言って僕が傘をさすと、『あなたと約束するといっつも雨ね、』
そう言いながら自分の傘を閉じて僕の傘の中に入ってきた。
『でも嫌いじゃないわよ、あなたの降らす雨。ほら、こうやって丁度一緒にひとつの傘に入れるくらいの雨だし、もしあなたの降らす雨がどしゃ降りだったら、二人とも真冬のキリギリスみたいに下を向いて黙々と歩かないといけないじゃない?』
彼女は僕を見上げてニコリと微笑んだ。
『でも、雨が降ったからあなたがお酒をご馳走してね。』


僕らは晴れの日より少しだけ近づいて歩き出した。


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